体外受精か顕微授精か
精液検査所見や治療歴により体外受精または顕微授精の選択を行っています。
採卵当日に体外受精で受精障害が予測される場合、体外受精の予定であっても、当院の医学的判断により顕微授精に切り替わる場合があります。
その場合、顕微授精の費用が必要になります。
注射、採血に伴うリスク
卵巣刺激等の注射や検査のための採血により、皮下出血(青あざ)が起こったり、神経を一時的に損傷したりすることがあります。
また、注射・採血・麻酔のための点滴などにより、穿刺部に硬結(皮膚が硬くなり小さなこぶ状になる)やケロイドが生じる場合があり、一時的に痛みを伴うことがあります。
採卵や胚移植のキャンセルについて
卵巣刺激を行っても、採卵可能な卵が成長しなかった場合、採卵がキャンセルになることがあります。
採卵当日の超音波検査ですでに排卵が終了していたり、採卵室入室後に排卵が起こったりして採卵が出来ないことがあります。
この場合、医師の判断もしくはご夫婦の希望により、人工授精に変更することもできます。
診察での超音波検査時の卵胞数と実際に採れた卵子の数が違う場合があります。
場合によっては、卵子が採れないこともあります。
卵巣や子宮の状態(子宮内膜症や子宮筋腫など)により、卵巣穿刺困難な場合や穿刺が危険と判断された場合など、採卵を中止することがあります。
また、採卵できた場合でも、受精しない場合や受精しても分割が途中で止まってしまったり、受精卵のグレードが非常に悪かったりした場合、胚移植がキャンセルになることがあります。
採卵操作のリスクやトラブルについて
採卵は、経膣超音波下で卵巣を穿刺し卵子を採取します。
採卵時、腹腔内に出血して提携病院での緊急手術や輸血が必要になることが、ごくまれにあります。
また、膀胱を穿刺して採卵した場合、血尿を来たしたり、膀胱内出血に対する処置が必要になったりすることがあります。
採卵後、出血や腹痛が続いたり、腹腔内に炎症を起こしたりすることがあります。
麻酔のリスクやトラブルについて
静脈麻酔を使用の場合、点滴が入りにくく何度も針を刺すことがあります。
麻酔薬(静脈麻酔)や鎮痛坐薬を使用した場合、薬剤によるアレルギーやショック、喘息発作を誘発する場合があります。
また、吐き気など麻酔の副作用が起こる可能性があります。
あらかじめ分かっているアレルギーや喘息の既往があれば、自己申告していただくことにより、極力回避することが可能です。
麻酔が効きにくく、採卵中に痛みを感じることがあります。
OHSS(卵巣過剰刺激症候群)のリスクについて
注射による卵巣刺激を行った場合、排卵誘発剤の副作用で卵巣が過剰に発育することで、黄体期に卵巣が大きく腫れ、腹水や胸水が溜まるなど重篤な合併症を引き起こすことがあります。
胃痛、腹部の圧迫感・不快感からはじまり、進行すると悪心・嘔吐、下痢、乏尿、さらには呼吸困難、血液凝縮による血栓症が起こることもあります。
なお、当院では、平成18年より一例もOHSSを起こしていません。
体外受精による出生児の安全性について
現在のところ、先天異常を有する児を出産する確率や児の発育は、自然妊娠と変わらないと報告されていますが、まだ判明されていないことがあります。また、流産率はやや高い傾向にあり、高齢になるほど高くなります。
多胎妊娠の可能性について
移植する胚数を多胎妊娠防止の観点から、下記の日本産科婦人科学会の会告に従うものとします。
「生殖補助医療の胚移植において、移植する胚は原則として単一とする。
ただし、35歳以上の女性、または2回以上続けて妊娠不成立であった女性などについては2胚移植を許容する。」
ただし、1個移植の場合でも偶発的に発生する双胎、2個移植の場合の双胎や偶発的に発生する品胎の可能性はあります。
体外受精での妊娠例のうち、多胎妊娠の割合は約3~6%です(日本産科婦人科学会の平成25年度倫理委員会報告)。
また、単一胚盤胞移植を行った場合、一絨毛膜二羊膜(MD)双胎の割合が自然妊娠の約0.3%に対して3倍と言われています。
当院での割合は0.6%です。(平成19年~24年2月)
異所性妊娠(子宮外妊娠)の可能性
胚移植では、子宮の中に胚を戻すにもかかわらず、妊娠例の1~2%程度異所性妊娠(子宮外妊娠)になります(日本産科婦人科学会の平成21年度倫理委員会報告)。
とくに、卵管の機能の低下した方は、その確率は高くなります。
その場合は、提携病院に入院のうえ手術が必要になることもあり、当院の指示にしたがって治療を受けていただきます。
新鮮胚移植や凍結胚移植のホルモン補充として用いる卵胞ホルモン、黄体ホルモンについて
新鮮胚移植後には、黄体機能不全となり着床が妨げられることを防ぐために黄体補充が広く行われています。
またホルモン補充周期での凍結胚移植では卵胞ホルモン製剤および黄体ホルモン製剤の使用が必須となります。
この治療に用いられる卵胞ホルモン製剤は、貼布剤のエストラーナ(妊娠中には使うべきではないと記載あり)や内服薬のプロギノーバ(医師が個人輸入しているもの)、黄体ホルモン製剤は内服薬のデュファストン、注射のプロゲステロン、腟錠のウトロゲスタン、ルティナス(国内で認可、発売されている)があります。
卵胞ホルモン、黄体ホルモンの補充する方法は世界的には1980年始めから実施されています。
2013年末までにこれらの薬剤を使用して生まれた児は、世界で卵胞ホルモンは約70万人、黄体ホルモンは400万人と推定されていますが、児に対する副作用は指摘されていません。
このことから安全性についての国際的な了解は得られていると考えています。
自然に近いホルモンであるため、安全性に関しては妊娠中に使用しても問題がないとの考えから、全国の多くのクリニックで使用されています。
当院でも、これらの薬剤を自然妊娠におけるホルモン値に見合う量を用いて治療を行っています。